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東京高等裁判所 昭和33年(う)534号 決定

抗告人(昭和三十三年(ラ)第五一四号事件) 石沢昌義

右代理人弁護士 持田五郎

抗告人(昭和三十三年(ラ)第五三四号事件) 近藤勝幹

右代理人弁護士 藤井英男

主文

本抗告はいずれもこれを却下する。

理由

昭和三十三年(ラ)第五一四号事件の抗告理由の要旨は、抗告人は債務者兼本件抵当不動産の所有者であるが、本件競売申立債権者樋詰高明の代理人池内省三弁護士との間において、昭和三十二年十月十七日、抗告人のみぎ樋詰高明にたいする元金三十七万円とこれにたいする利息金債務の一切の整理を抗告人から池内弁護士に委任し、同弁護士はその目的を達するため、抗告人所有の本件不動産を売却するなど抗告人のために代理行為をなしうる旨合意し、その結果本件抵当債権の弁済期を延期し、抵当権の実行をなさない旨の特約が債権者と抗告人との間に成立したのである。本件競売の申立は、これらの事実を無視し、池内省三弁護士が相手方たる樋詰高明から委任をうけ、同弁護士から復委任をうけた赤井瑞巖弁護士が申立代理人となつてなしたもので、弁護士法第二十五条に違反し、無効である。したがつて本件競売手続は続行すべきものでないから原決定のとりけしをもとめるというにある。

しかしながら抗告人石沢が債権者樋詰高明から本件抵当権の基本たる債権につき、弁済の猶予を得たり、本件抵当権の実行をしない旨の承諾を得たことを認めるべき証拠はない。弁護士池内省三が昭和三十二年十月十七日抗告人石沢から、同人の樋詰高明にたいする債務弁済に関する事務を委任せられ、本件不動産をその目的のために管理処分する権限をあたえられた事実、それにもかかわらず同弁護士が相手方たる樋詰高明から抵当権実行として本件不動産の競売申立の委任をうけたことは、抗告人提出の契約書写(記録一一七丁)、樋詰高明作成名義の委任状(同四丁)によつてこれを認めることができる。しかし、弁護士赤井瑞巖がみぎ池内弁護士から復委任をうけて本件競売申立をなしたことはこれを確認することができずかえつて、前記委任状の記録と本件競売申立書に徴すると赤井弁護士は池内弁護士と共同で債権者樋詰から本件競売申立をなすべき委任をうけ、みぎ競売の申立は赤井弁護士においてこれをなしたものであることを認めるに至る。したがつて本件競売申立の手続をもつてただちに弁護士法第二十五条違反の行為とするわけにはいかない。そればかりでなく、かりに本件競売申立の行為が同法条に違反するとしても、それは当該弁護士が同法所定の懲戒に服すべきに止まり、みぎ行為を無効と解すべきではない。みぎ抗告理由は採用に由ないところである。

昭和三十三年(ラ)第五三四号事件の抗告理由の要旨は、抗告人の妻近藤秀子は昭和二十八年九月一日本件競売建物の前所有者渋谷次郎からみぎ建物を期限の定めなく、賃料一ヶ月五百円の定めで賃借し、引続いて占有しているものであり、抗告人はみぎ秀子の家族として当然賃借権を有するものである。しかるに本件競売手続はみぎの賃借権が存在しないものとして進行せられたもので違法であるから原決定のとりけしをもとめるというにある。

しかしながら競売法第三十二条民事訴訟法第六八〇条によると競落許否の決定にたいし抗告をなし得るものは競落の許否についての決定により損失をこうむるべき利害関係人のほか、同条第二項に掲げる競落人および競買人に限られること明らかである。そしてみぎ利害関係人とは競売法による競売手続については同法第二七条第三項に列記せられるものにかぎるものである。同項第三号および第四号にいわゆる不動産上の権利者とは競売不動産につき第三者に対抗することができる物権を有する者をいい賃借人を包含しないから抗告人近藤は抗告をすることができない。そればかりでなく、同抗告人が本件建物につき賃借権を有することはこれを認めるにたりる証拠はなく、記録中の評価書(六三丁)、賃貸借取調報告書(七六丁)に徴するとかえつて賃借権を有しないことが明らかであるから本件競売手続に違法なところはない。結局みぎ主張は採用しがたい。

その他記録を調査しても、原決定に違法の点あるを見ないから本件抗告はいずれもこれを却下すべきものとし主文のとおり決定する。

(裁判長判事 牧野威夫 判事 谷口茂栄 満田文彦)

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